中間技術再生研究所

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1.エネルギー吸収能力の基本概念

鋼製透過型堰堤の設計では、巨礫の衝突に対して局所的なへこみや部材の塑性変形を
許容する設計を行うことから、鋼管部材のエネルギー吸収能力、変位吸収能力に関する
知識が必要となります。概念だけでも理解しますと、過去の土石流で鋼管部材がなぜ壊
れたのか、なぜ壊れなかったのかが理解でき、塑性変形を許容した礫衝突時の設計では
どんなことに注意しなければならないかが分かるようになります。弾性設計に慣れた砂
防施設の設計技術者には馴染みにくいかもしれませんが、大切なことですので少し説明
したいと思います。

1)基本概念
 理解のしやすさから片持ちばりを例にして、はりの変形による吸収エネルギーについ
て説明します(図-1参照)。
 鋼管はり材の一端を固定し、自由端に力を加えていきますと、力に比例して変位が大
きくなっていきます。やがて固定端の最外縁が降伏し始めます。このときのモーメント
を降伏モーメントといいます。さらに力を加えていきますと全断面が降伏します。この
ときのモーメントを全塑性モーメントといいます。固定端における曲げモーメントが全
塑性モーメントを越えるようになりますと、力と変形の関係は非線形になり、変形量が
増大し始めます。そのまま力を加え続けますと、固定端に近い部位で座屈が始まり、暫
くして当該部位に亀裂が発生します。

 力と距離の積はエネルギーですから、鋼管部材は亀裂が発生するまでに、力-変形曲
線が囲む部分の面積分のエネルギーを吸収したことになります。つまり、自由端から加
わる力に対し、鋼管はこれだけのエネルギー吸収能力を有していることになります。

 礫の衝突によって鋼管部材に加えられた衝突エネルギーが、鋼管部材のエネルギー吸
収能力を超えなければ、塑性変形は残るものの、亀裂の発生には至らないことになります。

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                 図ー1 鋼管部材の力と変形の関係



2)鋼管部材のエネルギー吸収能力に影響する要因
 
 鋼管のへこみ変形による吸収エネルギーを無視すると、鋼管はり部材の耐荷性能・変
形性能を左右する大きな要因として、局部座屈性状と脆弱部の存在があります。
これについて説明します。

―局部座屈性状に関係する直径-板厚比

局部座屈がいつ始まるかは鋼管の直径―板厚比(D/t)によって変わり、この比が大きい
ほど小さな角度で始まり、塑性変形によるエネルギー吸収能力には限界があります。こ
の比がある程度小さくなりますと座屈しなくなり、固定端の応力が引張強さに達するま
で塑性変形が進行するようになります。礫の衝突に対して高いエネルギー吸収能力が求
められる鋼製透過型砂防堰堤の部材には、直径-板厚比が十分小さいものを用いること
が必要となります。一般にD/t≦60(高張力鋼を除く)に制限することで、脆性破壊を
回避できるとともに塑性変形性能が期待できることが土木研究所等の実験から確認され
ています

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           図ー2 直径ー板厚比(D/t)が変形性能に及ぼす影響

※)道路橋示方書・同解説 Ⅴ耐震設計編11章,平成24年3月,(社)日本道路協会より


―脆弱部の存在による影響
 曲げモーメントが発生する領域に、鋼管よりも強度の低い部位があると、鋼管部材
本来のエネルギー吸収能力、変位吸収能力が発揮される前に、当該部位で破断してしま
います。このような部位、鋼管部材要素としては、継手部が該当し、欠陥のある溶接継
手、強度不足のフランジ継手が挙げられます。実際に2014年の南木曽町で土石流災害
におけるの梨子沢第1砂防堰堤の損傷要因に、継手部の破損が報告されています。
損傷は、継手部の破損が引き金になっていると報告されています。座屈しない鋼管部材
といえども、曲げモーメントが発生する領域にこうした部位があれば注意が必要です。
 礫の衝突に対して脆性破壊を起すことなく、部材が本来のエネルギー吸収能力を発揮
できるように、継手部の設計を行なうことの重要さがご理解いただけると思います。

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           図ー3 脆弱部がエネルギー吸収能力に及ぼす影響

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                 写真ー1 鋼製砂防堰堤に使用されているフランジ継手


※)平成26年11月6日事務連絡「鋼製透過型砂防堰堤の留意事項について」


最新覚え書きノート Z-スリット型砂防堰堤 2.実証されたフランジ継手の脆弱さ