INSEM堰堤/袖部リダンダンシーの低強度INSEMの実現

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INSEM堰堤/袖部リダンダンシーの低強度INSEMの実現

 
このたび新たに刊行された〈砂防ソイルセメント設計・施工便覧〉では、INSEM堰堤用外部保護材に対する要求性能として、
1.一般土木構造物と同等以上の耐用年数を保証する材料であること。
2.外部保護材に作用する想定外力に対して、変形や割れによって内部材が流出しないこと。
の2点が明記されておりますが、その部材設計に関わる定量的な検討方法については一切言及されておりません。
 
それというのも、元をただせば、現在INSEM砂防堰堤として建設技術審査証明(砂防技術)制度によって認定されている現行3社の鋼製外部保護材の設計検討方法は、三者三様で足並が揃っておらず、またその検討報告書の内容もそれぞれ独自のスタイルでまとめられておりますが、個別的にはそれはそれでそれぞれ新技術として評価されております。したがって、外部保護材の設計検討方法としては、未だ公的には定式化されていないというのが実情で、その辺のところが、今回のマニュアル制定に際して肝腎カナメの部分を見送らざるを得なかった主たる理由ではなかったかと推測されます。
 
それはともかく、その一方で気がかりなのが流行りのリダンダンシーの問題です。同じ砂防堰堤でも透過型の場合には、このところリダンダンシー論議or詮議でホットすぎるやりとりが交わされております。当然、同じ砂防堰堤で同じ対土石流のワールドであれば、袖部のリダンダンシーの有無や大小について、もっと関心が寄せられ論議が交わされてもおかしくないはずです。
 
幸い、前記3社のINSEM堰堤の基本的な構成要素は、下表にみられるように共通しているので、リダンダンシーの評価尺度を考えるのには好都合。さしあたって、最も身近で手っ取り早いものとしてクローズアップされるのは、衆目の一致するところ、〈土対針〉でも〈袖部の設計〉の項でとりあげられている〈せん断摩擦安全率〉*です。勿論これを袖部堤体に対する所要の安全率として位置づけるのではなく、あくまでも当該堤体が保有するリダンダンシーを評価するための一指標としての取扱いに限定するものであります。
 

表:審査証明取得INSEM堰堤3工法の比較

  INSEM-SB JSウォール(INSEMタイプ) INSEM-DW
外部保護材 LSP-4mm 波形鋼板(t= 3.2mm) LSP-4mm
目標強度(N/mm2) 3.0 3.0 1.5〜0.5
水平タイ材 - - あり
水平打継目処理 割愛 割愛 割愛
水平打継目せん断強度 σ/ 2.5 σ/ 13 ゼロ
土対針に準した袖部安定計算 割愛 実施 実施
*(参考)袖部リダンダンシー評価尺度としての通称〈せん断摩擦安全率〉算定式試案
 
 
ここにRd:袖部リダンダンシー指数
f:INSEM水平打継目摩擦係数
W:堤体自重
 
τs:外部保護鋼材のせん断強度
As:外部保護鋼材の有効断面積(腐食しろプラス余裕しろ=2mm控除)
P:礫の衝撃力
F:土石流流体力
 
 
INSEM堰堤/袖部リダンダンシーの低強I度INSEMの実現
 
下図は、上記算定式を用いて、堤体INSEM目標強度の高低が袖部のリダンダンシーに及ぼす影響を試算した結果を示したものです。通常のINSEM砂防堰堤においては、施工合理化の一環として水平打継目処理が割愛されるので、袖部のリダンダンシーに限って云えば、高強度指向が却って仇となることが避けられないようであります。
 
INSEM堰堤/袖部リダンダンシーの低強I度INSEMの実現
 
参考までに、施工合理化の一環として、いわゆる水平打継目処理が割愛される INSEM 砂防堰堤においては、高強度指向必ずしも吉とは限らず却って仇となる場合もあり……。
 
礫の衝撃力および流体力の計算は、土石流・流木対策設計技術指針に関する講習会テキスト設計例4.2 解説に示される推定式によった。
 

せん断摩擦安全率

 
ここに、 f:水平打継目摩擦係数
P:礫の衝撃力
F:土石流流体力
τs:鋼材のせん断強度
As:  〃  有効断面積*
 
*土砂材は軽量鋼矢板6㎜、腐食しろ1.0㎜(両面)と余裕しろ3.5㎜を控除
INSEM 材は軽量鋼矢板4㎜、腐食しろ0.5㎜(片面)と余裕しろ1.5㎜を控除
 
参考までに、新〈砂防ソイルセメント設計・施工便覧〉P.63には、参考:堤体内部において砂防ソイルセメントを用いる場合の強度や重量の考え方の基本と題して次のように述べられております。
 
堰堤が満砂すると堤体下流端に最大内部応力が発生する。このため、下流端近傍の材料の圧縮強度を高めておくことで、堤体の安定性に対する信頼性は高まる。また、上流が湛水した場合には、堤体内部が浸水する可能性があるが、堤体下流のり部の水密性を高めることで、材料の流出に対する抵抗も高まる。したがって、下流のり部に使用する砂防ソイルセメントは、圧縮強度と単位体積重量(単位容積質量)の両者を満足する必要がある。
堤体上流のり部は土石流中の巨礫の直撃や、堆砂による土圧といった外力が直接作用するため、本来は下流以上に強度を有する必要があると考えるのが一般的である。しかしながら、強度を高めて構造物の剛性を高めると、外力に応答して荷重が大きくなる。つまり、礫衝突に対しては堅ければ堅いほど、せん断抵抗を高める必要があるのに対して、柔らかい場合にはへこみによるエネルギー吸収に期待できる。したがって、現地発生土砂の性状によって圧縮強度が出にくい場合には、へこみによる影響範囲が下流側に伝達しないよう上下流方向の断面を大きくすることで対応が可能である。ただし、へこみによって材料が亀裂や破砕されると断面欠損になるため、外部保護材により材料の喪失を防ぐ必要がある。
堤体中央部は,堤体の安定性に必要な重量を確保できればよく、上下流のり部の安定性が確保されていれば、細粒土砂などの砂防ソイルセメントとして強度の出にくい材料や、通常なら取り除かれるような大礫など砂防ソイルセメントに不適な材料を利用することも可能である。
以上のように堤体内部に必要とされる強度や重量は部位によって異なる。ただし、堤体内部を分割して適用するには、施工性が損なわれない程度に十分断面が大きくなければならず、一般的な砂防堰堤では分割して施工できるほどの断面を必要としないことが多い。結果として現状では、施工性を考慮すれば堤体内部は均一な材料で施工することが望ましい。
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