アメリカにスチールダムのルーツを訪ねて

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100年前に造られた世界最古のスチールダムの今。

このレポートは、今なおアメリカに現存している世界最古のスチールダムであるAsh Fork Dam(1898)とRedridge Dam(1901)を1996年11月下旬に訪ねた際のダム状況写真を取りまとめたものです。
 
Ash Fork Damはアメリカ南西部アリゾナ州のやや北部高原地帯に位置しています。このダムは汽車のボイラー用水と町水道用水の供給を目的として、Santa Fe鉄道によって1898年に構築されました。ダムはマルチプルサスペンション形式で、高さは14m。スチールダムの耐久性に深く関係する鋼材の塗装については、建設時を含めて直近の1963年までに6回程度行われてきたようです。鋼材の状態についてもこれまで何度か調べられてきており、1935年時点では錆もなく、1970年でもサスペンション壁上流面に錆が覆う程度で良好な状態にあるとされていました。1994年には、その壁面に孔食(Pitting)が生じているものの依然十分な耐久性をもつと診断されております。ダムは天端全面越流型なので、当然のことながら洪水のたびにこれまで何回も天端越流を経験していますが、ダムの安全性や貯水機能について何ら問題になったことはありません。
 
一方、Redridge Damは北東部ミシガン州の五大湖西端Superior湖畔に位置しています。このダムは砕鉱機や選鉱機の給水を目的としたものでAtlanticとBalticの両鉱山によって1901年に構築されました。ダムはマルチプルサスペンション形式であり、高さは22.6m(鋼製部分は18m)。鋼材の塗装は、建設時を含めても2〜3回程度に留まっているようです。鋼材の状態については、1935年時点では錆もなく良好であったようです。1987年には、サスペンション壁上流面に孔食(Pitting)が生じていることが認められています。このダムは天端越流型ではなく放流管や余水吐を備えていますが、1941年には余水吐が流木で閉塞され天端を数時間越流された経験をもっています。それでもダムの安全性には全く問題がありませんでした。しかし、1979年に至ってダム管理者は安全面からサスペンション壁に開口部を設け湛水させないようにしたということです。
 
 

Ash Fork Dam(1898-)

100年前に造られた世界最古のスチールダムの今。
 
100年前に造られた世界最古のスチールダムの今。
 
100年前に造られた世界最古のスチールダムの今。
 
     
100年前に造られた世界最古のスチールダムの今。
     
     
実際に現地を訪ねて見ると、2つのスチールダムが建設後100年近く経っても現存しているという事実そのものに驚かせられたし、さらにそれを目の当たりにしてダムがそれなりに良い状態で維持されていることにも感動させられました。測定や検査を特に行ったわけではなく、たんに外観と概略の維持記録からではありますが、スチールダムの耐久性というものについて次のような印象をもちました:
 
—これまで決して十分な維持管理が行われたとは言えない状況(Ash Fork Damでは1960年代に、Redridge Damでは1922年に、それらの貯水池からの給水は完全に停止されたので、その後は実際上放置されたようである)であったにもかかわらず、全体的に鋼材の状態は良く、スチールダムは十分耐久的である。
 
—鋼材の腐食がある程度進行している箇所はサスペンション壁上流面に、また腐食形態についても孔食に限定されるので、このような腐食傾向に応じた防食対策が的確に取られさえすれば、スチールダムは100年を優に超える耐用年数をもつ永久構造物として十分通用する。
 
—つまり、このようなスチールダムのタイプであれば、他の材料で造られたダムに対して耐久性の面で決して引けをとることはない。
 
また、今回Redridge Damを案内していただいた地元のMichigan Technological UniversityのTerry Reynolds教授は、スチールダムが1890年から1910年のほんの20年間だけしか興味をもたれず、その後は全く無視された理由について次のような示唆にとんだ説明をされています:
 
—その当時、スチールダムの技術的な欠点として、漏水問題や維持コストの高さ、永久材料ではない鋼材の使用、同形式ダムであるHauserLake Damの破壊、さらには鋼材コストの上昇などが上げられた。しかし、これらがすべて1910年以降にスチールダムが全く無視されてきた理由であるとはとても考えられない。
 

—事の真相は、水理構造物には鋼材が向かないとか、スチールダムが本質的に安全性に欠けるとかという思いこみを技術屋がもっていることにある。そして、この思いこみは伝統的に重力ダムが好ましいという守旧癖(Force of habit)、すなわち旧技術への思い入れ(Technological Momentum)によって強められていることは疑うべくもない。さらに、新しい技術アイデアを推進していけるような強力な個性をもつパイオニア的技術者(Product Champion)が長期間あらわれなかったことも、そのような間違った認識を広める結果につながった。

 
—工学的な決定を行う際に、事実にもとづく技術的および経済的な側面よりも直感や個人的資質の方がもっと重要な役割を果たすということを、2つのスチールダムの存在は証明している。
 
(大井正彦、坂場義雄)
 
 

Redridge Dam(1901-)

100年前に造られた世界最古のスチールダムの今。
 
100年前に造られた世界最古のスチールダムの今。
 
100年前に造られた世界最古のスチールダムの今。
 
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